2006年04月04日

映画鑑賞感想文『ラストデイズ』

さるおです。
こんなにも、そしてこんなにも気合いの入っていた、カート・コバーン(Kurt Cobain)に捧げる映画『LAST DAYS/ラストデイズ』を劇場で観たよ。
監督はさるおの天敵ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)。音楽コンサルタントはソニック・ユース(Sonic Youth)のサーストン・ムーア(Thurston Moore)。
出演はブレイク役に『HEDWIG AND THE ANGRY INCH/ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『THE VILLAGE/ヴィレッジ』のマイケル・ピット(Michael Pitt)、ちょい役のレコード会社重役にソニック・ユース(Sonic Youth)のキム・ゴードン(Kim Gordon)。
あとはほれ、ガス・ヴァン・サントのいつもの手で、『MARS ATTACKS!/マーズ・アタック!』『EVERYONE SAYS I LOVE YOU/世界中がアイ・ラブ・ユー』のルーカス・ハース(Lukas Haas)はルーク役、『SCARLET DIVA/スカーレット・ディーバ』や『THE HEART IS DECEITFUL ABOVE ALL THINGS/サラ、いつわりの祈り』(原題:LE LIVRE DE JEREMIE) で監督・主演をつとめた『XXX/トリプルX』のアーシア・アルジェント(Asia Argento)はアーシア役。スコット・グリーン(Scott Green)はスコットで、ニコール・ヴィシウス(Nicole Vicius)はニコール。
クラブの男として『JULIEN: DONKEY BOY/ジュリアン』で一仕事したハーモニー・コリン(Harmony Korine)が、私立探偵役では『TOMORROW NEVER DIES/007トゥモロー・ネバー・ダイ』に出ていた気がするリッキー・ジェイ(Ricky Jay)も登場。

ラストデイズ.jpg

えーっと、これは3部作なんですね。
ガス・ヴァン・サントの"死シリーズ"(暗)、『GERRY/ジェリー』『ELEPHANT/エレファント』ときて、これが3つめ。
正直に書きます。
伝説のロックアーティストの最期の2日間!なのかどうかまるでわからない、つまらない失敗作に思えます。(もちろんわかってるぞ、これは実話ではなくて、作り上げたドラマだってことは。)

この映画の観方は2つあるよね。
映画好きとして観るか、ニルヴァーナマニア(カート・コバーン好きか、そうでなくても、カートか彼のバンドに何がしかの思い入れのある人)として観るか。
さるおはどっちにも当てはまります。で、どっちも当てはまらない人は、観に行かないとは思うけど、ぜんぜんお薦めできないぜ(涙)。念のため。

映画好きの視点で観た『ラストデイズ』は、おもしろさで言うと『ジェリー』と『エレファント』の間なんだよなー、っちゅーか『ジェリー』寄りだなー、さるおもひとりで観に来たけどさ、隣の人もこんな映画ひとりで観に来て、ニルヴァーナのファンだったんだろうなー、おいおい、寝ちゃったよ〜、3部作とか言って2作目だけ突出しちゃったのはどーしてなんだろーなー、うーん退屈だなー、と理由を考えてたらさるおなりに答えが出た。

ガス・ヴァン・サントはリアリティ追及型の眠くなる監督として有名です。リアリティ追及型の眠くなる作品を、丁寧にこだわって作っている、ということで、ほとんど催眠術師だNE!
あのねー、『エレファント』はすげーおもしろかったんです。ドラマとして成立してた。リアリティとドラマが共存してた。まさに秀作。
ところがさるお気がついた、『ジェリー』と『ラストデイズ』は残念ながらファンタジーなんだ。

森.jpg

『ジェリー』は、セリフまでほとんど無くしてリアリティを思う存分観せようとしたわりに、観せる方法論でずっこけたというか、完全に時間配分を間違えたというか(笑)、とにかく、寝ても寝ても話が進んでねーなーと思うと幹線道路の横であっという間に迷子になってしまう不思議映画になっちゃった。静寂だけならけっこうだが、そこに、絵画的すぎるオブジェクトを配置した映像を多用してみたりなんかして、なんつーか、リアリティを全面に押し出そうとするあまり、工夫しすぎてファンタジーになっちまっただ。

で、『ラストデイズ』はさらにファンタジーっす(泣)。主人公のブレイク君がパジャマ姿で延々と森の中をさまようシーンからはじまるんだけどね、なんとこれが自宅への帰り道。で、自宅はどこかというと、密林の中にひっそりと佇むでかくて立派なお屋敷、ただしボロボロ。
わかるよ、意味があるのは。リハビリ施設を脱走したのは死に場所に帰るため。長い長い孤独な道のりを歩き続けたのは、長く孤独だったそれまでの人生を終わらせるためにほかならない。その証拠に帰宅後、冷蔵庫のメモ("銃は寝室のクローゼットの中に"と書いてある)を見て彼は「Thank you.」と言ってますから。帰路の二股の分かれ道も象徴的で、右の道ならどこか別の場所に抜けることができたのか、彼の人生のいつの時点まで戻れば右の道を選べたのか、その道はもっとマシな人生に通じていたのか、いろいろと考えさせられる。帰ってきた豪邸は壁がはがれてボロボロで、つまりその家はブレイク君の疲れ切った心なわけだよね。そして彼は心の中の住人なわけですよ、疲労と崩壊のカオスの中に住んでいるわけですよ。わかるけどさ、これじゃファンタジーだ。
映画の中盤は、ブレイク君がひとりになりたがって家の周囲を淡々と逃げ回る、ここはまぁ"哀しすぎない"というリアリティが効いている。明日にでも死のうと決めた人の内面はさるおにはわからないから、これがリアリティだと言われれば、そうかもしれないと思う。で、まるで唐突に、死んでしまうものなのかもしれない。
が、死に方がマズイっす。温室の床に膝をつき、はるか上に何を見ていたのか。ご想像におまかせしますはけっこうですが、何も想像できなかったYO!"何かが見えていた"というのはすごくファンタジーっぽい。いや、見えててもいいんだけど、見上げていることがファンタジーっすね。そして翌朝、このボロ家にだけは庭師はいないだろうと思っていたが、にわかに現れた庭師がブレイク君の死体を発見。血痕も死んでいる感じも無いが、魂は体から抜け出し天国へと続くハシゴを登って行きましたとさ。
すべてが象徴的で詩的すぎる。結果として全体が抽象的になっちゃった。具体性の無い空想を見せられた感じです。

うさぎ狩り.jpg

次はニルヴァーナマニアの視点で観た『ラストデイズ』ですけど、はっきり言ってしまえば主人公がカート・コバーンを彷彿とさせない(爆)。
とりあえず、健康っすね。ギタリストらしく体を傾かせて歩いたり、がんばって工夫してっけどね、人物像として奥行きを感じない。常にブツブツ言ってたりもするけど、なんだろうな、病んだ感じが伝わってきません。黒いキャミソールを着たのも、カート・コバーンを是非とも彷彿とさせようっていう作戦バリバリなだけで、それで何かを表現したかというとできてない。
電話で「ツアーだぞ、穴空けないでくれー」って言われるシーンがあったけど、ブレイク君がどれほどビッグな存在なのか、まるでわかりませんでした。人気絶頂だけど逃亡中みたいな感じはぜんぜんしませんよ(涙)。
つまりね、なんで死ぬのかまるでわからない。

本当のカートは、もっともっと追いつめられていたんじゃないのか。
淡々とでかまわないから、静かに見つめてかまわないから、追いつめられた果てにたどり着いた悲劇の姿を、その軌跡の痕跡とともに描かなくていいのか。
考えてみれば、"カート・コバーン物語"は彼の最後の2日間に突然できあがったものじゃないよね。2日間だけを描いて、何だというのか。そもそもの趣旨がわからなくなってきましたよ、ガス・ヴァン・サント君。
『エレファント』には起承転結すべてがあった。『ラストデイズ』には"結"しかない。おもしろいはずねーずら。

ただ、見事に表現したこともあります。
すぐとなりに問題を抱えた人がいて、人はそれに気づくこともたすけることもできず、そして問題を抱えた自分は、表現する術を持たない。
映画『ラストデイズ』の核心だなー、きっと。
ブレイク君と彼を取り巻く人々の希薄すぎる関係が、この息苦しいリアリズムを、強調すらしていたと思います。

カート

さるおはニルヴァーナマニアです。カート・コバーンと、彼の声とメロディと衝動を、今も愛している。
カートのことは誰よりも知っていると錯覚しているし、カートをたすけたかったし、たすけられなかったことを悔いたりしているし、カートを失った世界に慣れた今になっても、カートは天国で楽しくやってるかな、なんて心配したりしている。ただのファン心理なんだけど、自分ではこれを特別な思い入れだと感じている。
だから、『ラストデイズ』がトリビュート・ムービーだと言われてしまうと、まいったなぁ。
さるおの音楽愛というか、パンク愛というか、カート愛はこちらで語っております。

ところで、マイケル・ピットの『Death to Birth』ひとり大合奏はよかったっすね!モノマネもがんばったYO!

心ゆくまでさるお、もんち!


posted by さるお at 06:13| Comment(18) | TrackBack(14) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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