2006年07月12日

映画鑑賞感想文『ヒトラー最期の12日間』

さるおです。
『DER UNTERGANG/ヒトラー最期の12日間』を観たよ。
監督は『DAS EXPERIMENT/es』でも話題を呼んだオリバー・ヒルシュピーゲル(Oliver Hirschbiegel)。
出演は、以下のとおりです。
アドルフ・ヒトラー(総統):ブルーノ・ガンツ(Bruno Ganz)
トラウドゥル・ユンゲ(ヒトラーの秘書):アレクサンドラ・マリア・ララ(Alexandra Maria Lara)
マグダ・ゲッベルス(ゲッベルス夫人):コリンナ・ハルフォーフ(Corinna Harfouch)
ヨーゼフ・ゲッベルス(宣伝相):ウルリッヒ・マテス(Ulrich Matthes)
エヴァ・ブラウン(ヒトラー夫人):ユリアーネ・ケーラー(Juliane Kohler)
アルベルト・シュペーア(軍需相):ハイノ・フェルヒ(Heino Ferch)
エルンスト・ギュンター・シェンク博士(親衛隊医師):クリスチャン・ベルケル(Christian Berkel)
ヘルマン・フェーゲライン(親衛隊中将):トーマス・クレッチマン(Thomas Kretschmann)
ヘルムート・ヴァイトリンク(陸軍大将):ミヒャエル・メンドル(Michael Mendl)
ヴィルヘルム・モーンケ(武装親衛隊少将):アンドレ・ヘンニッケ(Andre Hennicke)
ハインリヒ・ヒムラー(親衛隊長官):ウルリッヒ・ネーテン(Ulrich Noethen)
(ドイツ・オーストリア・イタリア合作)

『DER UNTERGANG』
英語では『DOWNFALL』、つまり、滅亡。観るとよくわかるね、なんと秀逸なタイトルか。
統治者は、栄光に取り憑かれてはならない。それは破滅の呼び水になる。

アドルフ・ヒトラー。いまだにドイツでタブー視され続ける、史上最悪の残酷なカリスマ。
本当に本当にタブーです。さるおはドイツに何人か友達がいるんだけど、ヒトラーの話はしようとしません。たまたまヒトラーの話になると、ものすごい深刻な表情になってしまう。
そのタブーを真っ正面から描いてしまったのが、あの問題作『es』のドイツ人監督。
しかも真実の物語。ヒトラーの最後の秘書トラウドゥル・ユンゲの証言と史実を下敷きに作られた作品です。ユンゲさんはその証言を『Im toten Winkel - Hitlers Sekretaerin/Blind Spot, Hitler's Secretary』というドキュメンタリー作品に残しています。で、そのドキュメンタリーが公開された翌年の2003年に亡くなりました。

1945年4月20日、ドイツの敗戦は誰の目にもあきらかで、しかも目前に迫っている。ただひとり、ヒトラーだけが周りの言うこと聞かずに突き進んで行くわけですが、ただひとりっつても総統なわけで、つまりみんなで突き進むしかないわけです。
狂気もあらわに部下を罵り、疑い、処罰(銃殺)し、逆転するぞ、勝つぞ、国民なんか死んだって知るもんか、前線へ部隊を進めろ!なんて叫ぶわけですが、もう部隊なんてものは残ってないんだ。それでも止めらんのですわ。
逆らうわけにもいかないし信じることもできない軍上層部のみなさんは、ナチスの地下壕(総統官邸=大本営)の中で酒は飲んじゃうわダンスパーティはしちゃうわ、そこに爆弾落ちてくるわで、もう大変なことになってます。みんなが、もうだめだとわかっている。本当の本当は、ヒトラーだってわかっている。それでももう止めるわけにはいかんのです。
そこには様々な生き様が渦巻いています。というより死に様なんですが、とにかく、最後までヒトラーに忠誠を誓うゲッベルスもいれば、見切りをつけて逃げ出そうとするヒムラーもいる。平和ボケして気楽に観ていると、謀反だとか、逃げろとか、生きる道がありそうなもんですが、そうじゃないんだ、クーデターを起こす力も、逃げる道も、もうすべて塞がれている。
狂気と向き合い、狭い地下壕で右往左往するしかないんだ。
そして、ヒトラーが自殺。とっ散らかしといて、どうにもできなくなったところでさっさと逝っちゃう。
映画にはその後が描かれています。脱出する者、自決する者、逃げようとする者、そして語り部となった秘書ユンゲがソ連軍(なぜかコザックダンス祭り)のただ中を歩いていくところまでを描いている。

最終的にドイツは敗戦するわけですが、映画では敗戦より前に自決を描いています。
追いつめられたとはいえ、ヒトラーが死んだ今、なぜ降伏ではなく自決なのか。
「大将が悪かったんだ」と言って降参してしまえばよいものを、自殺の道を選びます。この理由こそが、描くべき内容だったのではないか。この点において、さるおものすごい残念なんですけど(泣)。
もちろんさるおの心の中は、大将ひとりのせいにして生き延びたくないかなぁ?という気持ちと同時に、死んで済むと思うなよ、という強い気持ちがある。
"死んで済む"
ここです、ここ。死んで済ませるしかない、事情があった。
"総統に忠誠を誓ったんだから降伏するぐらいならいっそ死のう"などという忠誠心ではない、別の事情がある。
地下壕には、外側の世界があります。国民が住む市街地という"外側"がある。
そしてドイツ軍には、それまでドイツ軍が占領地で犯してきた数えきれない罪がある。
つまり、負ければ今度はそれをドイツ国内でやられてしまう。それが地下壕という例外的な密室以外の、"地上のドイツ"が直面する現実なわけです。
敵国と自国という敵対だけではない、大本営の内と外という違いすぎる状況がある。これが、劇中の多くの死(銃殺であり裁判であり自決)の本当の意味だと思うわけですわ。
もっとはっきり言ってしまえば、自分がさんざんやってきたことを、やられるのは嫌だ。さんざんやってきたのが自分だってバレるのは嫌だ。そーゆーことだったはずです。
セリフとして"総統に忠誠を誓ったんだから降伏するぐらいならいっそ死のう"みたいなこと言ってますが、これは真実ではない、"別の事情"の翻訳に過ぎない。"地上のドイツ"が直面するであろう収拾できない現実こそが自決の理由だと、はっきり描けよ。"自分がさんざんやってきたこと"、それを映画でおしえてくれ。ドイツ軍の足跡は、白虎隊にしてしまってはいかん。
(邦題のようにヒトラー個人の最期の12日間の密着取材だと思えば、そこが描かれないのはしょーがないんですが)

とにかく、単なる戦争映画ではない、人と組織の崩壊の瞬間を描いた良作だと思います。
人と組織の崩壊はこの現代でもあちこちで見ることができる。熟した実を落とし崩壊する組織という普遍性があるだけです。
ドイツの軍上層部ってこうだったのかぁ!なんて言ってちゃだめっすよね。

ドイツによる、独裁者ヒトラーの美化だとは思いません。
W.L.シャイラーの『第三帝国の興亡』にはこう書いてある。
第三帝国を建設し、これを情け容赦なく、しかもしばしば非凡な抜け目なさで統治し、あのような目がくらむような高みと、あのような悲惨な最後に導いた人物は、邪悪であったが、疑いもなく天才だった。
こっちのほうがはるかに美化だ。真実であろうと同時に、これが美化ちゅーもんだ。決して首都を去らず、首都陥落なら首都で死のうというヒトラーの第三帝国建設への妄執は"目がくらむような高み"ではあるけれど、それは独裁者の愚かな罪なのであって、邪悪な天才などではない。
もちろん、ヒトラーが最悪なのではなく、世界史は夢に取り憑かれたヒトラーをこれまで何人も生んできたが、そもそも歴史というものは勝者の紡ぐ物語である。ヒトラーは歴史を書けなかっただけで、勝者の中にも恐怖政治を愛した暴君は掃いて捨てるほどいる。
60年の時を経て、あくまでも"人"として描かれた怪物アドルフ・ヒトラーに、観客は、600万人ものユダヤ人虐殺を悪魔ではなく人間がやってしまったという罪の匂いを大いに嗅ぎ取らなければならないのではないかと思います。

秘書のユンゲさんが映画の中でしきりに言ってますね、"ヒトラーが怪物だった"ことを後で知ったと。若くてわからなかった、でも若かったと言い訳はできない、知ることができたはずなのに、自分は恐ろしい罪を担ってしまった。
重たい十字架です。でもはじめは重さがわからない。それが十字架であることもわからない。ある者は知らずに、狭い地下壕を右往左往するしかなかった。
そして別のある者は、知りながら右往左往して、手のつけられないヒトラーが死ぬのを待った。

ドイツ人俳優が"ちゃんと"ヒトラーを演じたことなど、これまで1度もありません。それが、やってみたら、怪物じゃなくて人間になっている。おかげで世界中に議論を巻き起こし、祝大ヒット。これでいいんです。蓋をしたままにしておいちゃいけない。

いやー、良作っすよ。

名優ブルーノ・ガンツはうまいっすね。そして似てますね。
かつては天使(『Der Himmel uber Berlin/ベルリン・天使の詩』)を演じた男が、悪魔を演じた。と書きたいところですが、違います。人間を演じたんだよ、取り憑かれた人間を。

心ゆくまでさるお、もんち!
posted by さるお at 01:27| Comment(8) | TrackBack(16) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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