『CAPOTE/カポーティ』を観たよ。
監督はまだ『The Cruise』しか撮っていないベネット・ミラー(Bennett Miller)、脚本はジェラルド・クラーク(Gerald Clarke)、ということで、"初めて"尽くし。しかし勇気ある作品に仕上がったなぁと、すごいと思います。
出演はカポーティ役にフィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)、ネル・ハーパー・リーは大好きなキャサリン・キーナー(Catherine Keener)、ペリー・スミス役にクリフトン・コリンズ・Jr.(Clifton Collins Jr.)、そして小松政夫なクリス・クーパー(Chris Cooper)。
"Capote" is the kind of film that whispers in your ear. That can have as profound an effect on someone as watching a speech with pomp and circumstance.
『カポーティ』は耳元でささやくような映画。それは、威風堂々としたスピーチのように、深遠な影響を与える。
これはベネット・ミラーの言葉です。そのとーりだな。
耳元でささやかれた、と感じる理由はカポーティの声音や話し方のせいではなく、劇中のペリー・スミスがみせたように、カポーティの倒錯ぶりを誰しもほんのわずかに持っているからではないかと思います。
自信過剰な俗物、トルーマン・ガルシア・カポーティ(Truman Garcia Capote)。
残酷で純粋で下世話なカポーティ。ヤク中でアル中の孤独な天才カポーティ。
こんな男を愛せない。第2代ロチェスター伯爵(ジョン・ウィルモット)と同じくらいに、愛せない。
いきなり思い切ったことを書いてしまいますが、じつはさるおは、カポーティは、作家などではないと思っています。
詩人だと思う。
彼が書いたのは自伝であり、ノンフィクションであり、告発であり、"物語"を紡ぐのではない。
ただ、美しすぎるほどの言葉を紡ぐ人間として、やっぱり天才だったと思います。
その、書いて良ししゃべって良しの才能は、カポーティを社交界のアイドルたらしめた。ぶっとんだ個性と高すぎる知能とゴシップで時代の寵児となり、自分をさらけ出しつつ、自分を隠して生きてきたのではないかと思います。
トルーマン・ストレックファス・パーソンズ(Truman Streckfus Persons)だった少年は、家庭の事情できらびやかな俗物になってしまった。
カポーティの真意は、常にわかりません。一家惨殺事件の犯人ペリーにのめり込んでいくのも、"ペリーの中に自分自身を見つけたから"だとは思いません。そんなキレイ事ではないのがカポーティの歩んだ道だと思う。裏切られ、裏切る、それがカポーティの真実なんじゃないかと思います。
ところが、『IN COLD BLOOD』を書くことで、底なしの闇にはまってしまった。優しいことを言ってみたり金脈呼ばわりしたり、真意のわからない倒錯ぶりで、早く死刑になっちゃえよーという、自分がまさかの"冷血"っす。小説の一部が発表されると、死刑は延期。死刑が執行されなければ、小説は完結しない。もはや、"救いたいけど救えない"のではなく、"逃れたい"。
そして、ペリーの死刑執行を目前に、自分の闇に触れる、知ることの対価としての苦痛に気づく。文学や絵画の才能があるペリーについての「同じ家で育ち、ある日ペリーは裏口から、自分は玄関から出て行った」という言葉は、結局正しかったわけです。"ペリーの中の自分自身"、理解されない人生、誤解され続ける人生、それをやっぱり見つけていた。ここで初めて、利己的な俗物の心が引き裂かれることになる。カポーティは、二股の道を同時に歩みはじめます。
もし彼が、本当に"ただの俗物"ならば、死刑の瞬間に立ち合わず、冷たく帰ってしまったはずなのに、彼はそうしなかった。絞首台に上がるペリーの孤独が、そのままカポーティの孤独に重なる。名声が幸福とイコールではない、愛に飢えた少年の姿が重なる。
美談などではなく醜聞である、武装した天才カポーティの華やかな人生は、臨界点をこえて、傷つきやすい天才の破滅へのカウントダウンとなるわけですが、表の顔とは裏腹な孤独と苦しみが、"見えないところに"見える。
ペリー・スミスもまた、優しさを持ち合わせた凶悪犯であり、カポーティを利用するしたたかさも持っている。理解されない人生、誤解され続ける人生を歩んだ、似た者同士。
What's in cold blood?と思いましたが、Cold blood in cold blood.だと気づきました。
良し悪しでは決して量れない人の複雑さ、それをついにさらけ出した、カポーティのこの人生はありだと思います。美しすぎるほどの言葉の波と、その美しさよりもさらに美しいみっともない下世話な人生、ありだと思いますね。
万人受けをのぞまない真摯な映画づくりだと思います。いいね、こーゆー作品は。
名脇役フィリップ・シーモア・ホフマンね、カポーティかと思いました。オスカー主演獲っただけのことはあります。
心ゆくまでさるお、もんち!