『MUNICH/ミュンヘン』を観たよ。
監督はスティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)。
原作は、暗殺チーム元メンバーの告白をもとにしたジョージ・ジョナス(George Jonas)の『標的は11人 モサド暗殺チームの記録』。
出演は、主人公アヴナーに『TROY/トロイ』のエリック・バナ(Eric Bana)。
暗くてちょっと粗いトーンがけっこう雰囲気あります。重苦しくて好き。
1972年、ミュンヘン・オリンピック。さるおは1歳なので当時はぜんぜん知らないわけで、"ブラック・セプテンバー"なんて後から「へぇ〜」と聞いたことがある、それだけの印象の事件ですが、今になって映画で観るとまた、何やってんだ人間は、と思いますね。
たとえばこれが個人的な報復なのであれば、本人はやる気まんまん。ところが、国の報復に、安全な警備くらいしかやったことのない、もうすぐパパになる普通の男が、巻き込まれる。今の世の日本人が考えれば傍迷惑な指令ですが、当時のイスラエルで、明日からキミ殺し屋でよろしく、と白羽の矢が立ってね、断ってもいいんだけどまぁ、断れないわけです。かつての日本もそうだったように"お国のために"命の取り合いをする、そーゆー社会がある。
暗殺者さんとかスパイさんとかって映画だとたいていかっこよさそうですが、"トレーニングされてないホンモノ"はやっぱり"ぜろぜろせぶん"とはほど遠く、金がいくらでも自由に使えるわけじゃないし、最新の武器が手に入るわけじゃないし、人も武器も寄せ集めで日々緊張しながらやってかないといけない。大変っす。
で、パレスチナ人VIPを殺していくわけですが、居場所を知る情報提供者ファミリーは、あたりまえだけど向こうともつながっているわけですわ。1個いくらの商売をしてるんだから、こりゃしょーがないっすよね。当然、報復は報復を生み、仲間を殺され、次は俺かと、どんどん追いつめられて行く。最後なんかもう、おとうちゃんクタクタっす(涙)。
物語は、いや、物語じゃなくて事実ですが、『仁義なき戦い』っすね。このおとうちゃんは、ヤクザ映画でいう"てっぽうだま"にされたわけです。ちゃらら〜、ちゃらら〜♪という音楽が流れないだけで、文太じゃけん、おぅ?というセリフがないだけで(『仁義なき戦い』にもありません)、『仁義なき戦い』があたりまえの社会がある。政府なんてどこも、かたぎの世界じゃないですが。
ひとりの父親が暗殺者になる。
これはもう充分に悲劇ですが、映画『MUNICH/ミュンヘン』は、この悲劇を生んだ世界情勢の是非を問う作品です。11人のアスリートはなぜ殺されたのか。なぜ報復するのか、誰に報復するのか、背後に誰がいるのか、報復に終わりはあるのか。
映画としておもしろかったのは、食事のシーンが多いこと。食べるという"生きる行為"と交互に繰り返される、暗殺暗殺、また暗殺。
笑い語らい、ときに命の駆け引きをしながら、それでもまた食べ、また殺す。
食事、家族、誕生、"個人が知りえないほど巨大な"報復の裏側、"国"の上に乗っかっているだけの"てっぽうだま"、この明暗が、作品の深みを増したな。
心ゆくまでさるお、もんち!