※ネタばれ記事です。ネタばれコメントも大歓迎です。これからご覧になる方は気をつけてねー。
ジョン・クレイマーという人物を知る上でとても重要そうな会話が出てきます。ジョンが保険会社のウィリアムをたずねてこう切り出すんですね。
I came to talk to you, Will, because I've found a treatment for my cancer that I think holds a lot of promise, but my requests for coverage have all been turned down. So I was hoping that maybe if I came and explained it to you, that you might be able to get that overturned for me.
見込みのありそうな癌の治療法を見つけたんだけれども、保険の適用範囲外だと審査で拒否された。だから直接話しに来たんだよ、ウィリアム。キミにわかってもらえば、保険が使えるようになるだろうと思って。
This is a doctor in Norway. He's got a thirty to forty percent success rate with gene therapy. He injects what he calls suicide genes into cancerous tumor cells, then any inactive form of a toxic drug is administered and it...
ノルウェーの医者さんで、30〜40%の成功率だと言ってる。 癌細胞に自殺遺伝子を導入して、毒性のない・・・
And a new trial's starting. He's looking for new patients, and he seems to think that I'm the perfect candidate.
新たな臨床試験がはじまるんだ。この医者さんは患者を探してて、私がうってつけだと思ってるんだよ。
懸命に説明してますね。癌細胞を自殺させるタンパク質を発現する遺伝子を、標的度の高いウィルスプロモーターに運搬させるやりかたっすかね。この治療をやってみたいんだというわけです。
ここから、ジョンとウィルの攻防戦がはじまります。
ウィリアムは、主治医(ゴードンせんせ)が薦めているならわかるけど、そーじゃないでしょ、と言う。
ジョンは、ゴードンせんせはただのスペシャリストで、お金を稼いでるだけ、あの人は考えない、と反論。ドアノブに手をかけているのはその人自身であって、他人が決めることじゃない、と言うんですね。
するとウィリアムは、ジョンの年齢でその病状じゃどーせ無理なんだよ、と切り捨てようとする。会社の決まりだから絶対なの、と言う。それでもこの治療をやるって言うなら、保険の適用外だからそのつもりで。勝手にすればいーじゃなーい。
ジョンは怒ります。いったい何が無理なんだ。誰の方程式で無理だって決めるんだ。
Did you know that in the Far East, people pay their doctors when they're healthy. When they're sick, they don't have to pay.
Healthcare decisions should be made by doctors and their patients, not by the government. Oh, now I know they're not made by doctors and their patients or the government. They're made by the fuckin' insurance companies.
極東では、健康なときに医者にお金を払うんだ。で、病気になったら払わなくていい。
ヘルスケアについての決定は、医者と患者によってなされるべきであって、政治判断であってはいけない。けど、こうなってわかったぞ、医者も患者も政府も関係ねぇ。どーせ、くそったれの保険会社が決めるんだ。
ウィリアムにはまだわからない。だから、治療するなら費用は自分持ちになっちゃうよ、なんて言うわけです。
Don't talk to me about money. I have money. This is about principle. You see, Will... this is my life we're talkin' about. You remember?
私にカネの話をするな。カネならある。これは信念についての話なんだよ。ウィル、私の命のことを話してるんだ、おわかり?
わかってまへん。決裂です。You think it's the living that will have ultimate judgement over you, because the dead will have no claim over your soul. But you may be mistaken.(死んだらもうしゃべれないんだから、究極の判断ができるのは生きてる者だけだと思ってるんだろ。そうはいくもんか)こう言い残してジョンはウィルの部屋を出ました。
そう、カネの話をしてるんじゃないんだ。命の話をしてるんだよな。
ウィリアムが話していた"会社のポリシー"と、ジョンが話していたプリンシプル(主義・信念・道義)はとっても違うんすよね。ジョンのプリンシプルを垣間見ることのできる重要な会話です。
マイケル・ムーア(Michael Moore)の『SICKO』観ましたか?
さるおはこの監督さんが大好きです。『ROGER & ME』から始まって、なんだかんだでだいたい全部観てるんじゃないか。『BOWLING FOR COLUMBINE』や『FAHRENHEIT 9/11』は劇場で観ましたよ。
今回ジョンが怒っているのは『SICKO』のテーマです。ムーア先生、急患です。テロより怖い、医療問題。アメリカの医療制度はだめだ、よその国へ行って看てもらおう。ムーア先生はアメリカで治療の受けられないアメリカ人の患者たちを連れて、イギリスやフランスやカナダやキューバにたすけてもらいに行くんですね。一行が訪れる国はどこも、アメリカより断然優れた医療制度を持っている。
"極東では、病気になったらお金を払わなくていい"、ってどの国かな。ジョンが"命の話"の引き合いに出すFar Eastって、どこのことなんでしょーか。
ヨーロッパ・アフリカを真ん中にして世界地図を描きます。で、"とっても東"なのがファーイースト。東アジア、東南アジア、極東ロシア、このあたりっすね。中国も部分的に入ります。ファーイーストというのは"地域"を指す言葉なので、広義か狭義かで少し変わります。
ほんとはね、地図描いてみたら思うんだよな、極東はニュージーランドじゃねーか、と。つまり、オセアニアという地域です。ポリネシアとか、ニューギニアとか、ミクロネシアの島々っすよ。
となるとこれはオーストラリアなんじゃじゃねーか、だってあんた(ワネルさん)、オーストラリア人だろー、なんてことを思う。ところが、ファーイーストにオセアニアは入らないんですね。きっとオセアニアは、"東"じゃなくて"南"なんでしょう。
ならば、マレーシアなんじゃじゃねーか、だってあんた(ワンさん)、マレーシア出身だろー、なんてことも思う。マレーシアは医療レベルが高いらしいし。
シンガポールも医療保険の制度はちゃんとしてます。
インドはどうだろう。ファーイーストとは言えないか。
劇中に登場する新年のお祝いやら十二支やらでファーイーストは中国というのもありえそうですが、お祝いのほうはセシルを追っかけてっただけだしなぁ、中国の医療制度が理想的とも思えない。
んじゃ、日本は?ちゃんとしてるとは言えないけれど、アメリカとの比較ならちゃんとしてます、国民健康保険があるし。でも"病気になったらお金を払わなくていい"なんてことはないし、制度に救われない状態というのはあちこちにある。日本はやっぱり弱者に厳しいわけで。
うーん、どこなんでしょーか。
国を限定することが大事なんじゃありません。わざわざ"Far East"って言うんだから、それでいいんだけどさ。
なんでこんなことを考えているかというと、ジョンの信念を知りたいからです。なぜ4なのか、なぜ12なのか。何を信じ、どんな哲学を持っているのか、そんなことがもっと知りたい。
ジョンは"カネならある"と言っているし、実際、お金持ちだったはず。あんなに乗り気だったノルウェーの医者さんによる遺伝子治療は受けなかったの?理由は?
6作品を観ていて、ジョンがその治療を受けたようには見えないっすよね。末期癌だ、もうたすからない、残された時間でゲームやろう、そんなふうにしか見えません。
末期癌患者はたくさんいるし、これからも出てくる。だから、とても難しいけれど願わくば、"この治療法には保険がきく"という前例を作るのがベストです。ジョンはそこを目指していたからこそウィリアムを説得しようとしたんだと思います。人々の役に立とうとしたんすよね。結局保険は無理だった。けどまだ、治療法の確立そのものに一役買うことはできます。
それにね、30〜40%の成功率なら、やる価値あるじゃない。崖からダイブして自殺未遂する前に、藁にもすがる思いで、自費でやってみたらいい。そしたら、まだ少しは未来があったかもしれない。希望があったかもしれない。いくら怒っていたとはいえ、命の本質を理解しようとしない者たちへのお仕置きはその後だっていいだろー。なのにこの時点でのジョンの選択肢は、ノルウェー行きか、絶望か、で絶望(崖からダイブ)のほうを選んでいる。
そして、"自力で死ねない"とわかったときに、生まれ変わっちゃった。ゲームやるぞと。
もしかしたらこの時点でも、ノルウェー行きか、ゲームか、選択できたかもしれない。となるとジョンは、ノルウェー行きよりも死を選び、ノルウェー行きよりもゲームを重要だと考えたということになります。
命を懸けた選択、それはジョンの揺るぎない信念と情熱そのものだったはず。この選択こそが、ジョンが生きるということの意味にほかならない。哲学者ジョンの究極の選択なわけですよね。
うーん、やっぱりジョンのことがもっと知りたいっすねー。ジョンはフツーと違うから。だって、1)ノルウェー、2)ゲーム、3)最後に自殺、そーゆー順序の選び方のほうがありそうだもん。いずれにしてもジョンは残された時間のすべてを"信念"のために使うことにするわけで、その遺伝子治療で時間が稼げれば、もっとたくさんゲームやりまくるもよし、(このときはまだ出会ってませんが)アマンダを"本当に"救うもよし、少なくとも数々のゲームの終盤戦をホフマンやらジルに任せなくても自分で全部できた、とかね。
だから、この選択をするにあたって、ジョンの中でとんでもなく大きな変化があったはずなんです。考えに考え抜いて、それまで、すべてだと思ってた何かを捨て、戦い始めたわけだから。
ジョンは、ゲーム終了後の世界に何を思い描いていたんでしょーか。
ジョンはジルの逃げ道を確保した(これについては『SAW VII』以降のことなのでまた別に考えますが)。自分はいなくなっても、愛するジルが生きる世界(さらにもしできれば愛弟子アマンダも生きられたかもしれない世界)、それはいったいどのように改善された社会なのか。ジョンは何を成し遂げようとしてたんでしょう。
心ゆくまでさるお、もんち!