『CHE: PART ONE THE ARGENTINE/チェ 28歳の革命』『CHE: PART TWO GUERRILLA/チェ 39歳 別れの手紙』を劇場で観たよ。
監督はスティーブン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)です。ということは、『OCEAN'S/オーシャンズ』シリーズのようにとてもわかりやすいか、あるいは『SYRIANA/シリアナ』のようにまるでわからないかのどちらかであって、題材がゲバラということはもう後者なのは間違いなく、そこは覚悟して観ないといけない。"わかりにくい映画だ"というレベルで文句タレんのはナンセンスっすね。
出演はさるおがほとんど惚れているベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)さん。
まぁ実際観てみたらわかりにくいところはなかったです。でも、『パート1』についてはとてもソダーバーグ的な"ある種のつまらなさ"はある(笑)。だって、"山場"となるはずの部分だけをわざわざ削ったみたいなんだもん(爆)。船に揺られていたと思ったら、次の瞬間キューバに上陸してましたよ。キューバ上陸の瞬間が無いんです、かなーり壮絶で悲惨なシーンになるはずの、この映画における"最初の山場"になるはずなのに。
でもまぁね、2部作を立て続けに公開した以上、これは1本の映画ととらえるべきで、『パート1』に"山場"がないのはあたりまえ。革命が成就するわけですから物語としてはちゃんと山場はあるんだけど。
あと、"思想"という側面が希薄っすね。マルクス思想をどう捉えどう展開していくか、なんてことは作品に出てきません。"戦う理由"を省いたあたりはまことにソダーバーグ的(笑)。
そうそう、老け顔俳優ベニチオ・デル・トロに28歳の革命は無理だと、じつは『パート1』を観始めた瞬間に思いました。さらに、『Diarios de motocicleta/モーターサイクル・ダイアリーズ』のガエル・ガルシア・ベルナル(Gael Garcia Bernal)をすでに観てしまっている今となっては、ベニチオがいくら激ヤセしてみたところで、やっぱり少し体がデカすぎるな(実際のゲバラがガエルほど線が細いわけではないですけど)、ということで、大変申し訳ないことではありますが、本人ののめり込みようや評判とは裏腹に、こいつはチェじゃない、ベニチオだ、というところから離れられませんでした。そして案の定、『パート2』のラストではさるおが好きで好きでたまらない"ヨレヨレ"のベニチオ登場、さるお的には嬉しいけれど、どーも50代にしか見えないぞと、感動しつつも戸惑ったわけですよ。ところが、そのさらに後の、あのグランマ号に揺られる冒頭のベニチオを観たら、「お!若い!35歳くらいに見える!」となぜか思えたというベニチオ的マックスの奇跡。
映画はとてもおもしろかったです。
この作品は、「正義が負けた、革命家の夢が終わった、それでもゲバラの存在はきっと希望の種を蒔いただろう、世界は続いて行くのだから」という話ではないし、「愛と正義を貫いた孤高の革命家が、政治と軍部、あるいは卑劣なプロパガンダ、統制、人民の弱さや裏切り、そして圧倒的な武力の差により、戦ったけれども破れてしまった」などという話でもないと思う。
本当のゲバラは知らないけれど(ゲバラについてはこちらにも書きましたよ)、ソダーバーグを信じて(ソダーバーグだって本当のゲバラを知らないけれど)、まず、エルネスト・ゲバラが"革命家になりたかった理想主義のゲリラ屋"だというところから入らないといけないなぁと思います。
ゲバラに思いを馳せたくなる作品なので、映画の感想文という枠をちょっと超えてみます。
キューバ、ボリビア、それぞれに事情が違う。
キューバもボリビアも、革命の土台はたしかにあったんだけど。
キューバはヨーロッパに"発見"されて以降スペインの植民地になった。で、独立したいから1回2回と国民は戦争を起こしています。当時のスペインはものすごく強くて、人民軍は負けてしまうわけですが、そこへアメリカが得意の介入。キューバ人には「たすけにきたよ」って言えばいいや、ということで、アメリカという資本家によるあらたな搾取がはじまる。今度こそ独立だ、現在の敵はアメリカだ、ということで立ち上がるのがフィデル・カストロ率いる革命軍ですね。つまり、革命の首謀者はカストロで、ゲバラはそれに乗っかったわけです。
カストロの革命軍はキューバ人で組織されていた。外国人はゲバラだけです。自分の祖国の革命が目的の軍隊だったわけです。
しかもカストロという人は、大学で法律を学んだ後弁護士として貧しい人々のために働き、2年後に議会選挙に打って出ると見事に当選。この当選をバチスタのクーデターによって無効にされると、カストロは130人の同士を集めて自前の部隊を作り、バチスタの兵営を襲撃する。うまくいかずに仲間の多くを失い、カストロ自身も投獄されるんだけど、釈放されるとメキシコに亡命、さらにアメリカに移って活動し続け、さらに隣国メキシコで入念に準備した上での"三度目(当選を含めて)の正直"が映画『28歳の革命』にあたるわけです。実際は出だしのマンサニヨで躓き仲間のほとんどを失うわけですが、それでも前に進む力があった。ゲリラ軍を指揮するカストロの活動は人々の支援を獲得して、最終的には800人もの大部隊に膨れ上がります。
つまり、カストロという人物はゲリラ指揮官であると同時にそもそもが政治家だということです。アメリカを後ろ盾にしたバチスタの手に落ちたキューバに革命をもたらす。殺し合いをやるけれども、現行の政府を転覆させたら今までと異なるシステムの新政権を樹立する。その後どーするのか、みんなの生活をどんなふうに変えるのか、そーゆー政治家としてのビジョンがあった。
そして、A pauper sitting on a throne of gold(黄金の玉座に座る乞食)ボリビア。こちらも16世紀のインカ帝国崩壊以降スペインの植民地になり、18世紀後半から19世紀前半にかけて何度も何度も革命戦争が起き、独立したはいいけれど、その後も100年近くにわたって周囲の国と領土の取り合いを繰り広げ、チリに負けて内陸に押し込まれると川伝いに海に出ようとパラグアイと激戦。疲弊しつくし財政崩壊した"乞食"になってしまっている。その上、軍事社会主義を掲げ、鉱山で労働争議が起きると鉱山労働者700人を虐殺してしまうわけです。これじゃいかんということでMNR(民族革命運動党)が政権をとると、軍部が負けじとクーデターを起こし、もう軍部は黙ってろと怒った人民軍が一揆を起こす。二転三転、激動の歴史っす。人民軍は政府を破り(ボリビア革命)、MNR政権を樹立、鉱山は国有化され、大プランテーションは解体して小作人が畑を手に入れた(農地改革)。ところが農地改革の5年後には再び軍部のクーデターが起きます。もちろん背後にいるのはアメリカです。アメリカと軍のモノになった政権vs.ソ連寄りのボリビア共産党。
そこへやってくるのがゲバラです。ボリビアは"革命"というものを経験済みだし、軍部(今は宿敵アメリカ)による圧制に苦しんでいる。まさにうってつけ。よーし、ボリビアからはじめて、南米全部で革命やっちゃうぞー。
主役になったのは(なるかもしれなかったのは)アルゼンチン人率いるゲリラ軍です。どちらかというと命令系統の上位に位置するキューバ人、それとボリビア人兵士、合わせて50名。見方によっては内政干渉です。
ゲバラが準備したのは当面の潜伏先。でもそこは過疎の山岳地帯だった。共産党が手伝ってくれないとなると、鉱山労働者がたより。でも鉱山へはアクセスが悪いんです。だから政府軍が先に鉱山を叩いてしまった。これじゃ補給路は完全に断たれてしまいます。最後の希望だった農民に売られれば、もうどーにもならない。しかもそのリスクの中でゲバラはゲリラ部隊を2つに分けているわけです、そんじゃなくても50人しかおらんのにー。
軍医あがりの博愛主義者で革命に賭ける情熱は燃えていた。けれども、今回はカストロ役がいないのです。"勝利したい"という願望があるだけで、"勝利そのもの"のビジョンすらない。武装闘争はいいけれど、その後はどーするんだ。武装闘争はいいけれど、そもそもどーやって勝つんだ。
長文になってしまったので続きは次のエントリーです。
心ゆくまでさるお、もんち!