かつてACミランが、バロンドール最終候補を独占したことがある。1988年と1989年、ミランが、"泣く子も黙るミラン"だった時代のできごと。88年はマルコ・ファン・バステンが受賞して、2位にルート・フリット、3位にフランク・ライカールト、翌年もファン・バステンは連覇、2位がフランコ・バレージ、3位がまたしてもライカー。ベルルスコーニが大金持ってやってきて、後にこのチームで伝説をつくるアリゴ・サッキ監督をパルマから引き抜き、PSVからルート・フリットを、アヤックスからファン・バステンを、そして88年にサラゴサからライカーを獲得。プレッシングフットボールで戦ってオランダトリオが大活躍という、黄金期に突入した頃です。
その後もミランは強かったっすね。マルディーニ、コスタクルタ、そしてデメ・アルベルティーニが中心選手になって、カペッロが指揮を執るミランは、無敗優勝とかね、まさに無敵。
そんなことは、もう起きそうにない。20年間、そう思っていましたよ。時代とともにフットボール情勢が変わって、強かったチーム(あるいは国とか)があっという間に勝てなくなり、勝てなかったチームが突然大躍進する、めまぐるしい時代になってしまったから。
再び単独のクラブがバロンドール最終候補の椅子を独占するなんて、すげぇ。カウンターサッカーが主流になった今、その対極を突き進む孤高のバルサが"そのクラブ"だなんて、すげぇ。買ってきた選手ではない"バルサのカンテラーノ"ばかりだなんて、すっげぇ。
さるおは、バロンドールというのはあまり気にかけてなくて、なんか、おフランスのほうでやってるやつ、という感じがずっとしていたんですが、バルサがここまで来た今となっては、わたくしは、バロンドールがほしい。
バロンドール(Ballon d'Or)というのは、フランスのサッカー専門誌『フランス・フットボール』が1956年につくった『ヨーロッパ年間最優秀選手賞』賞ですね。候補者を選ぶのはこの専門誌で、その先はサッカージャーナリストさんたちの投票で受賞者が決まります。
最初はヨーロッパ国籍の選手じゃないとだめとか、投票するほうもヨーロッパの記者さんでやりましょうとか言って、ちょっと狭かったんすね。これが95年からはUEFA加盟クラブでプレーをしてれば国籍不問、07年になるともう世界中どこでプレーしててもいいや、ということになって、全世界の記者さんが投票権を持った。
一方に1991年から始まった『FIFA最優秀選手賞(FIFA World Player of the Year)』というのがあって、こちらは同業者(監督とキャプテン)が選ぶんですね。
バロンドールはメディアが選び、FIFA最優秀選手賞は同業者が選ぶ。
そして2010年から2つの賞が統合して『FIFAバロンドール』ということになり、投票権があるのは監督、選手、記者と、でっかい賞になったんでした。
バロンドールの過去を振り返ってみると、1位から順に、こうなります。数字は得票数。
04年 シェバ(175/ミラン)、デコ(139/ポルト→バルサ)、ロニー(133/バルサ)
05年 ロニー(225/バルサ)、ランパー(148/チェルシー)、ジェラード(142/リバポ)
06年 カンナ(173/ユーベ→マドリ)、ブッフォン(124/ユーベ)、アンリ(121/アーセナル)
07年 カカー(444/ミラン)、CR7(277/ユナイテッド)、レオ(255/バルサ)
08年 CR7(446/ユナイテッド)、レオ(281/バルサ)、トーレス(179/リバポ)
09年 レオ(473/バルサ)、CR7(233/ユナイテッド→マドリ)、チャビ(170/バルサ)
ちなみにFIFA最優秀選手賞だとこうです。
04年 ロニー
05年 ロニー
06年 カンナ
07年 カカー
08年 CR7
09年 レオ
だいたいんとこ、かぶっている。
07年以降は1位の断トツ感がすごいっすね。09年のレオは特にやばい。
で、2010年はこれが、バルサバルサバルサっちゅー、イムノのようなことになった。チャビとイニ坊とレオの3人に順位をつけなくちゃいけないというのはもう、困っちゃうわけです。で、困りながらもわたくしは、このところ殺気まる出しのチャビに受賞してほしいなと思っているのでございます。
チャビは、もちろんバルセロニスタにとってはメガクラックで生きたレジェンドの大キング様なんだけれども、一般的にどうかといえば、レオのようなスターでもないしイニ坊と比べたって地味そのもの。イニ坊はほら、なんだかんだで毎年すさまじく強烈な1発を決めているしな。でも、バルサの頭脳はチャビ、バルサの心臓はチャビ。チャビは、なんというか、つまり、"フットボール"そのものなのです。
広い視野とバランス感覚。乱れることを知らないリズム。チャビが前を向いたら、攻撃の合図。他の人には見えないパスコースが見えている。何手も先まで、知っている。シンプルに、シンプルに、正確無比なパスを、針の穴ほどのコースに、さらりと通す。中盤に君臨し、すべてを支配する男。こんな選手は他にいない。
サー・アレックス・ファーガソンに「これまで1度もボールを奪われたことがないんじゃないか」と言われた男。南アでじつに544本のパスを通した男。1試合で15kmを走る、唯一無二の司令塔。
それに、三十路だし(笑)。円熟味を増して存在感バリバリの今、獲っちゃわないと。
そして来年わたくしは、願わくばまた困りながらも、こう書きたい。イニ坊に受賞してほしいな、イニ坊は魔法だ、だから獲っちゃわないと、と。
心ゆくまでさるお、もんち!