2006年10月08日

映画鑑賞感想文『ヴェラ・ドレイク』

さるおです。
『VERA DRAKE/ヴェラ・ドレイク』を観たよ。
監督・脚本は『NAKED/ネイキッド』『SECRETS & LIES/秘密と嘘』『人生は、時々晴れ』のマイク・リー(Mike Leigh)。
出演は、ヴェラ・ドレイク役に『SENSE AND SENSIBILITY/いつか晴れた日に』『SHAKESPEARE IN LOVE/恋におちたシェイクスピア』のイメルダ・スタウントン(Imelda Staunton)。この人は舞台に立っていることが多いホンモノの実力派大女優。この人大好きです。観ていると圧倒される。泣けるほどにものすごい素晴らしい演技をする人です。
夫のスタン・ドレイクにはフィル・デイヴィス(Philip Davis)、息子のシド・ドレイクはダニエル・メイズ(Daniel Mays)、娘のエセル・ドレイクはアレックス・ケリー(Alex Kelly)。スタンの弟フランク役はエイドリアン・スカーボロー(Adrian Scarborough)、ちょっと悪役のリリーはルース・シーン(Ruth Sheen)、エセルにプロポーズするレジー役は『GANGS OF NEW YORK/ギャング・オブ・ニューヨーク』『M : i : III/MISSION: IMPOSSIBLE III』『V FOR VENDETTA/Vフォー・ヴェンデッタ』にも出ちゃっているエディ・マーサン(Eddie Marsan)、憎まれ役だけど本当は哀愁にどっぷりのウェブスター警部はピーター・ワイト(Peter Wight)、そして裁判長を演じたのが『IRIS/アイリス』のさすがアカデミー俳優なジム・ブロードベント(Jim Broadbent)。

ぐわぁー、みなさん泣けるいい演技です。まいった。
しかも、出ました、さるおが好きな"救いの無い映画"。ほんとまいった。

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・主演女優賞受賞、こりゃ獲るのもあたりまえ。世界中が、1つの作品、1人の女優、そしてヴェラ・ドレイクに、慈しみと賛美の拍手を送るのも、こりゃあたりまえ。
なぜかというと、えーっとですね、心の内側を描いているからです。

まず、オープニングがすごい。すごいというより、ずるい(笑)。
ヴェラ・ドレイク、知りませんか?こーゆー人、身近にいませんか?
スタメンのよい子のみんな、みんなのママ、あるいはおばぁちゃんが、こうじゃなかったかい?
女の人ってね、じっとしてないです。常に体を動かして、休みなく働く。子供の頃っちゅーのは男子も女子もナマケモノっす。オトナになっても、会社務めなんかしてる場合はけっこうナマケモノですが(働き者のよい子たち、暴言ですみません。さ、さ、さるおがナマケモノだったんだよ、本当にすみません)、さるおのパパママの世代、あるいはもっと上になると、女の人ってちょっと信じられないくらいに疲れ知らずです。"おかあちゃん"って本当にエライんだよ。こういう"おかあちゃんの姿"ってものすごく美しいんだよ。
「寸暇を惜しむ」って、こーゆーこと言うんだよね。
で、"おかあちゃんの美しさ"がさるおの心をもうわしづかみ。

1950年イギリス、労働者階級の人々が暮らす界隈でのできごとです。
ヴェラには幸せな家庭があってね、寸暇を惜しんで病気の隣人を訪ねちゃぁ明るく甲斐甲斐しく世話を焼き、忙しいしお金はたくさんないけれど、充実してて、満たされてるわけです。
ただし1つだけ秘密がある。ヴェラは、望まない妊娠をした"困っている娘さんたち"の堕胎を無償で“助けて”いたんすね。
ところが、助けた娘さんのひとりが具合が悪くなっちゃって病院に運ばれて、なんだかんだでヴェラの秘密が白昼の下に晒されるわけです。
この頃のイギリスでは"いかなる場合でも"人工妊娠中絶は重罪です。で、ヴェラは逮捕、裁判にかけられる。

警察が踏み込んできたときのヴェラの表情。あぁ、イメルダ・スタウントンってほんとすごい。
さるおは今んとこタイーホ経験がないですが、それでも息苦しいほどの動揺が伝播してきます、動かないヴェラから。
ものすごいドキッとしたんだよね、わかってたんだもん。
ヴェラの動揺が、放心が、恐怖と不安が、怯えて泣きたい気持ちが、痛いくらいに観客を飲み込んでしまう。
驚いたり、善人ぶったりしない、等身大の人間の反応をしている。怯えて恐怖に打ちのめされる等身大の姿が見える。
「家族にはどうか言わないでください」
あまりのリアリティに泣けちゃうんでござる。

その後のヴェラの心理描写もものすごいっす。イメルダ・スタウントンの底力を見せ付けられた思いがします。もう演技じゃないね、あれはヴェラだ。あー、泣ける。
追いつめられたヴェラに家族よりも先に(っつってももう家族になってるけど)声をかけるレジーという役どころも素晴らしい。
短時間でものすごい風格のジム・ブロードベントもさすがっすね。

ダイヤの心を持つヴェラは、1950年イギリスのような弱者に厳しすぎる社会で“困っている娘さんたち”を助けずにはいられなかった。
そしてダイヤの心を持つがゆえに、誰かを恨むことも反撃することもないのである。恐怖に怯えて、ただ黙って、泣きたい気持ちを我慢しているのである。

すごいな、この作品は。社会が抱える闇や、中産階級の暮らしや思想と労働者階級のそれとの対比も描いているし、幸せが一瞬にして崩れ去る厳しい試練、一家が懸命に試練をくぐり抜けようと格闘する姿、受け入れるとはどういうことか、赦すとはどういうことか、あまりに深いこれらのことを、存分に描いています。

ヴェラ・ドレイクとは何者か?
そう聞かれたら、こう答える。"聖女"だと。

"困っている娘さんたち"は救ったけれど、ヴェラの運命は救われませんでした。最短で1年半ぐらいかぁと涙目になっていたところに、2年6ヶ月の禁固刑。"思っていたより悪い"っていうね、こういうリアリティがずっしり来ます。
映画のヒロインなのに、常に予測より少し厳しい状況に置かれている。ほっとするところが無い。素晴らしい重苦しさです。

この作品には最低限の"希望"がある。ドレイク家のみなさん、レジーも一緒にね、待ってますから。
でもまたこの、待つことしかできないというリアリティが、もう少しマシな希望の欠如が、ほんと素晴らしい。

ダイヤの心を持つ聖女ヴェラ・ドレイク。あまりに無防備なヴェラの姿に泣いてしまいますよ、うん。1950年当時、その罪で収監されていた多くの人が、母であり祖母であった、"古き良き時代"の影の苦しみを思って泣いてしまいます。
素晴らしい作品です。
"動揺"をこれほどリアルに描いた作品もないんじゃないかなぁ。泣ける名演を観て泣いてください。

心ゆくまでさるお、もんち!
posted by さるお at 23:10| Comment(8) | TrackBack(13) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうも、はじめまして。ふぉんだといいます。トラックバックありがとうございました。
さるおさんのおっしゃるとおり、この世代(?)のおばあちゃんたちおかあさんたちって疲れ知らずで元気ですよね。きちんとした食事も摂っているような気がします。ヴェラも毎日きちんとごはんを作っていたようですしね。イギリスらしくお茶もたくさん飲んでおりました。
またおじゃまいたします。
Posted by ふぉんだ at 2006年10月10日 00:17
おはようございます♪
TB有難うございました。 先日の「イーオン・フラックス」にも こちらにも どうもTBが入りません。
(*_ _)人ゴメンナサイ

↓ あれ?? 入ってる _( ̄▽ ̄)ノ彡☆ばんばん!
今 このコメントかいてて 発見。
折角ここまで 書いたので 書き込みしていきます o(*^▽^*)oあはっ♪
(エラーになったので 入ってないと思ったのです^^失礼しました★)
Posted by とんちゃん at 2006年10月10日 07:54
はじめまして。
TBありがとうございました。
この映画、イメルダ・スタウントンの演技が光っていますよね。
素晴らしい女優さんだと思いました。
Posted by 水無月 at 2006年10月10日 09:55
ふぉんださん
来てくださってありがとうだぞ。嬉しいっす。

> おばあちゃんたちおかあさんたちって疲れ知らずで元気ですよね。

「世界中どこへ行っても、おかあちゃんは美しいんだなぁ」と思って、早くも泣けてきました。
ヴェラも毎日ごはんを作って、団欒しながら食べてたね。うん、お茶もよく飲んでた。こーゆーところは日本と感覚が近いですねー。
Posted by さるお at 2006年10月11日 04:55
とんちゃんさん
トラバ不調って、seesaaさんが原因かもしれんです。すみません、わざわざ。どうもありがとうございます。
Posted by さるお at 2006年10月11日 04:56
水無月さん
イメルダはすごいっすねー。彼女の演技にはいつも圧倒されます。アップで、じっとして、ぽろっと泣かせると、んも〜、ド迫力。素晴らしい女優さんだね。
Posted by さるお at 2006年10月11日 05:01
遅くなりましたが
TB有難うございました。

イメルダ・スタウントンを始め
役者陣の芝居は、演技を超越し
リアリティを感じさせましたね。
Posted by YOSHIYU機 at 2006年10月18日 21:47
YOSHIYU機さん

> 演技を超越しリアリティを感じ

あれはヴェラですね。そしてヴェラの家族。演技だなんて信じられないよなぁ。
Posted by さるお at 2006年10月21日 00:03
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

ヴェラ・ドレイク
Excerpt: 「ヴェラ・ドレイク」 2005年 英 ★★★ 重い映画です^^1950年代のイギリス。 主人公ヴェラ・ドレイク(イメルダ・スタウントン)は、4人家族で、良き理解者の夫 スタンと シャイ..
Weblog: とんとん亭
Tracked: 2006-10-09 23:26

「ヴェラ・ドレイク」
Excerpt: マイク・リー監督作品。前回の第77回アカデミー賞で主演女優賞など3部門にノミネートされ、数々の映画賞を受賞した話題作。これを見ようと思ったきっかけは、主役のヴェラを演じたイメルダ・スタウントンでした。..
Weblog: あざやかな瞬間
Tracked: 2006-10-10 00:34

映画『ヴェラ・ドレイク』
Excerpt: 原題:Vera Drake 優しさゆえに犯した罪、それでも法が法であるために、そして哀しくも見せしめと言われ、彼女は2年6ヶ月の禁固刑を受け入れた・・それでも幸せな彼女・・ 195..
Weblog: 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり??
Tracked: 2006-10-10 00:50

おじさんシネマ(ヴェラ・ドレイク)
Excerpt: 八月、最後の日曜日。 街は、24時間テレビの黄色いTシャツがあふれている。 もう、夏休みも終わるんだと実感。 若者が街に繰り出していた。 今日は、映画を観ようと出かけてきたのだが、今ひとつ決ま..
Weblog: おじさん日記By宙虫
Tracked: 2006-10-10 00:55

映画評「ヴェラ・ドレイク」
Excerpt: ☆☆☆☆(8点/10点満点中) 2004年イギリス=ニュージーランド=フランス映画 監督マイク・リー ネタバレあり
Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
Tracked: 2006-10-10 00:56

ヴェラ・ドレイク
Excerpt: あらすじ 終戦から5年後の1950年、イギリス。物資が不足し、 人々の間では物々交換も盛んだった時代。 一家の主婦で通いの家政婦として働くヴェラ(イザベラ・スタウントン)は、 優しく献..
Weblog: filmをめぐって
Tracked: 2006-10-10 01:31

「ヴェラ・ドレイク」
Excerpt: (c) 2004 Vera Drake Limited/Les Films Alain Sarde/UK Film Council. All rights reserved. これって、す..
Weblog: 或る日の出来事
Tracked: 2006-10-10 07:13

『ヴェラ・ドレイク』
Excerpt: ヴェラ・ドレイク 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント 発売日: 2006/02/24 メディア: DVD この映画の舞台は’50年代のイギリス。その時代、イギリスは中絶が..
Weblog: 水無月cafe
Tracked: 2006-10-10 09:51

ヴェラ・ドレイク☆すべてを赦す。それが、愛。 ヴェラ・ドレイク、彼女には誰にも言えない秘密があった。
Excerpt: WOWOWで観ました♪
Weblog: ☆お気楽♪電影生活☆
Tracked: 2006-10-10 16:38

ヴェラ・ドレイク
Excerpt: 『秘密と嘘』のマイク・リー監督の作品。 単館での公開で、映画館は連日満員だったらしい。 DVDで鑑賞。 1950年のロンドン。 労働者階級の平均的な主婦、ヴェラ・ドレイクは 愛する夫、息..
Weblog: 映画、言いたい放題!
Tracked: 2006-10-10 17:35

ヴェラ・ドレイク (VERA DRAKE)
Excerpt: 鑑賞日:2006/5/21 監督: マイク・リー 出演: イメルダ・スタウントン (ヴェラ・ドレイク)     フィル・デイヴィス (スタン)     ピーター・ワイト (ウェブスター警部..
Weblog: 福の神 映画のすすめ
Tracked: 2006-10-11 00:06

『ヴェラ・ドレイク』
Excerpt: Vera Drake(2004/イギリス・フランス・ニュージーランド) 【監督】マイク・リー 【出演】イメルダ・スタウントン/フィル・デイヴィス/ピーター・ワイト 監督名だけで観に行く一..
Weblog: 愛すべき映画たち
Tracked: 2006-10-12 10:59

ヴェラ・ドレイク
Excerpt: ヴェラ・ドレイク/VERA DRAKE 公式サイト  >>> 2004年  イギリス・フランス・ニュージーランド 監督 : マイク・リー 1950年、冬のロンドン。 平凡な主婦ヴェラ..
Weblog: Rosario*
Tracked: 2006-10-12 18:51