『EYES WIDE SHUT/アイズ・ワイド・シャット』を観たよ。劇場で、心して観た、1999年、キューブリックの遺作である。
製作・監督・脚本すべてがスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)。
原作はポール・シュニッツラー(Arthur Schnizler)、脚本はフレデリック・ラファエル(Frederic Raphael)による。
出演は、トム・クルーズ(Tom Cruise)、シドニー・ポラック(Sydney Pollack)、ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)。
この映画はとんでもない大傑作である。さるお君は、ここ5、6年ほどの間に観た作品の中で、本当の大傑作といえば、『EYES WIDE SHUT/アイズ・ワイド・シャット』『MYSTIC RIVER/ミスティック・リバー』の2本しかないと思っている。
エンターテイメントというにはあまりにおぞましい、心の闇のリアリティを映す鏡そのもの。『アイズ・ワイド・シャット』は、タイトルどおり背徳的な夢であり、怖い映画なのであ〜る。
この作品の素晴らしさは、人の心理についての映画だという点につきる。
"夫婦生活の実体をさらけ出した作品"でもなければ、エロ映画でもない。
俳優たちは、おさえた演技を通り越し、感情を押し殺している。そこがまたいい。セリフは多少形式的で、ゆっくりと一語一語丁寧に発せられる。そこもまたいい。
当時実際に夫婦だった主演2人の名前に隠れてしまったためか、公開前から話題だったわりには本質を消化されていない不遇の作品。キューブリックの作品は見れば見るほど面白いんだ、もったいない。
ほとんどの観客は、主人公の夫の視点で描かれたこの物語を、男性心理を解いた映画だと思っているにちがいない。これについては、さるお君はかなりのマイノリティかもしんないけど、異議があるぞ。監督が男性だということを考えれば、もちろん女性心理を描けるはずはないのだが、そこがこの作品のフツーじゃないところ。これは女性心理の映画だ。
夫の日常、妻の日常、はたして夫婦は、互いに別の異性を意識しているのかどうか。ニコール・キッドマンの、暗闇からこちらを窺うような自ら闇を宿した瞳が暗示的である。
一方、日常ではないディナーパーティ。その後の寝室で語られる、微妙に均衡を喪失した心理をえぐるような会話。
「彼からセックスを誘われたわ」
「彼の気持ちはわかる。だって君は美しいから」
「あなたも他の女と寝たいと思っているのね?」
「愛する君を傷つけるようなことはしない」
「私はあなた以外の人とセックスしたいと思ったことがあるわ」
真顔の夫。ケラケラと笑い出す妻。
男というものは、女を求めるもの。夫は妻以外の女を求めたか?そうではない。焦点は、妻の方なんである。
夫は、自分が妻以外の女を求めるかどうかよりも、妻が自分以外の男を求めるかもしれない、という心配にのみ支配されてしまう。男性心理としては驚くような内容ではないが、彼の夢(妄想)の中では、妻が自ら下着を脱いでしまっているところに意味があるのだ。彼の夢(妄想)の中にこそ、妻が宿す闇が描かれているんだな。
物語の主軸は、妻の"実現しえなかった夢"、つまり恋であって、夫の見る背徳的な夢と、実現しえなかった妻の夢のはざまにこそ息苦しい共振があり、アンバランスとも言える危うい均衡があるんであ〜る。
愛とは危ういもんなんであるね。
女性心理として、あまりにリアリティがあるのであるよ。怖くなるな〜。
インモラルな妄想を、心の闇を、そして愛の危うさと恋の真実を、ここまでストレートに描き得た作品を、さるおは他に知りません。
"映画の登場人物の気持ちに自分も感情移入して"泣く、というのはよくある。
人の心に宿る闇と、ほじくり返された自分の心の闇と、そのリアリティを見せられたことが痛くて痛くて泣いたのは、後にも先にも『アイズ・ワイド・シャット』だけである。とんでもない大傑作だぞ。
ところで、主人公が訪れるとある屋敷の空間美は圧巻である。おぞましい映像と仮面の下の"表情"、粗い粒子の向こう、寒々とした質感の向こうに、芸術的な"風格"と呼ぶべき空気が流れれている。キューブリックよ、生き返れ。
この頃のトム様はまだ"崖っぷちの男"を演じるのは無理なんだが、まぁいい。そもそも、主人公に平面的なトム様を連れてきたあたり、すでにニコールの引き立て役というかなんというか、やっぱりこれは女性心理を描いた作品なのだ。
「他の男と寝たい」と奥さんに告白された夫が嫉妬でかる〜く気狂って夜の街をほっつき歩く話。と言ってしまっては元も子もないからな〜。
心ゆくまでさるお、もんち!
まぁ、旦那さんにあんな風に言うことはないと思いますが、言う時点で本気じゃないなーと思うくらいですけど(^o^;
芸術的に美しかったですねー
お屋敷も・・・
>主人公に平面的なトム様を連れてきたあたり、すでにニコールの引き立て役
この部分に大爆笑してしまいました(笑)
先日はTBを頂き光栄です、
先ほど、当方からも『グッバイ、レーニン!』と共にTBをさせ
て頂きました。
***
さて、惜しくもキューブリックの遺作となってしまった
『アイズ ワイド シャット』、
僕も先だって、
敬愛するキューブリックへのラヴ・レターくらいになれば…と
書きまとめたものをお披露目した訳ですが、
何よりも、
皆さんのキューブリック、また、キューブリック映画への思い
に触れ、この映画に真摯に向き合われた姿を垣間見させて頂き、
僕など大いに学ばせてもらいました。いま、僕の中のキューブ
リック映画が輝きを加えていますし、とてもスリリング且つ心
安らかな思いでいます。
***
さて、拙ブログでは、
先日来、『グッバイ、レーニン!』、『ザ・ウォール』(ピンク・
フロイド)を取り上げていまして、
昨日夜半に、「壁シリーズ/壁3部作の締め…」といったものを
エントリーしております。(―現在未完)
また、覗きにいらしてください。
―さるおさん、
今後とも宜しくお願いいたしまーす!
P.S)
「そっくりじゃねーか」拝読しました、
それぞれイイとこ衝いてますねー!
二コール・キッドマン、ものすごい目ヂカラを感じますよね。
『スイミング・プール』観ましたか?すごくおもしろくて、すごく美しいんだけど、結局あれはどういう話だったんだか・・・わかったら是非おしえてください。さるおはどうしてもすっきりしなくて頭がぐるぐるしています(笑)
女子には闇がありますよね。直視してはいけない、暴いてはいけない闇が。でもたしかに、旦那にそんなたわ言をいうようでは本気じゃないよね(笑)
>> 主人公に平面的なトム様を連れてきたあたり、すでにニコールの引き立て役
> この部分に大爆笑してしまいました(笑)
ちゃんと役目は果たしてましたよね。
> キューブリック映画は「1回、2回、3回ほど向き合っただけでは素朴に好きだ、嫌いだとすら言えないや」
わかります。さるおは、"1度観たけどわからなかった作品"について好きだ嫌いだと言うのは好きじゃないので、よくわかります。キューブリック映画は何度も観るものっていうのが、前提になっちゃってる感もありますね。
と言いつつ、じつはね、さるおはこの『アイズ・ワイド・シャット』を1度しか観ていないんです。劇場で観たっきり、レンタルとかもしてない。なんだか痛くて(笑)。さるおの感想だと、この映画って、暗示的な手法のわりに、けっこう直球なんだなぁ。
『シャイニング』とか『フルメタル・ジャケット』とか『時計じかけのオレンジ』は何度も観ているんですが、本当におもしろいですねー。
これからもよろしくお願いしますね。また遊びに行きます。
そっくりじゃねーか!と思うようなネタ(巷でみんなが言ってないネタね)もあったらおしえてください(笑)
さるおさんは「かなりのマイノリティかもしんないけど」と書いていらっしゃいますが、この映画が公開された時、ニューヨークに住む、いわゆるWASPのアメリカ人が「この映画には、自分が考えてみたこともなかった女性心理が描かれている。女の人はこんなことを考えているのかと思ってショックを受けた」と言っていました。そういう意味でウィリアムの気持ちがわかるんだそうです。
さるおさんの文章を読んで、このアメリカ人と同じように感じた人が他にもいたんだと思いました。でも、私が本当にそれを理解できたかというと、女性だからかな、どの部分がそんなに衝撃だったのか、まだよくわかりません。豪邸の中の場面も実は女性の側の内面を表しているということなのかなあ。
興味深く読ませていただきました。
> 女の人はこんなことを考えているのかと思ってショックを受けた
そうだよね、男子側からの感想として、この驚きってありますよね。
> そういう意味でウィリアムの気持ちがわかる
そうか、女子ってこんな?ってショックを受ける男子の心理が描けている・・・観客にも主人公にも同じショックなんだね。なるほど〜、たしかにこのアメリカの方とさるお、似た感想かもしれませんね。
さるおにとってはちょっと新鮮な感じもします。さるおは"女子はこんなだってことがついに白日の下に晒されちゃった〜"って思って怖かった。今までブラック・ボックスに入っていたのに、重大なヒミツがバレた!みたいな気持ちでした。
でも眼鏡も好き(!)かも? すみません、趣味に走ったこと申し上げて・・・苦笑。
男女の違いを浮き彫りにしましたね、この作品は。
映像はとてもキューブリックっぽかったと思います。
ニコちゃんのメガネ、似合ってましたね。