2007年04月22日

映画鑑賞感想文『カポーティ』

さるおです。
『CAPOTE/カポーティ』を観たよ。
監督はまだ『The Cruise』しか撮っていないベネット・ミラー(Bennett Miller)、脚本はジェラルド・クラーク(Gerald Clarke)、ということで、"初めて"尽くし。しかし勇気ある作品に仕上がったなぁと、すごいと思います。
出演はカポーティ役にフィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)、ネル・ハーパー・リーは大好きなキャサリン・キーナー(Catherine Keener)、ペリー・スミス役にクリフトン・コリンズ・Jr.(Clifton Collins Jr.)、そして小松政夫なクリス・クーパー(Chris Cooper)

"Capote" is the kind of film that whispers in your ear. That can have as profound an effect on someone as watching a speech with pomp and circumstance.
『カポーティ』は耳元でささやくような映画。それは、威風堂々としたスピーチのように、深遠な影響を与える。

これはベネット・ミラーの言葉です。そのとーりだな。
耳元でささやかれた、と感じる理由はカポーティの声音や話し方のせいではなく、劇中のペリー・スミスがみせたように、カポーティの倒錯ぶりを誰しもほんのわずかに持っているからではないかと思います。

自信過剰な俗物、トルーマン・ガルシア・カポーティ(Truman Garcia Capote)。
残酷で純粋で下世話なカポーティ。ヤク中でアル中の孤独な天才カポーティ。
こんな男を愛せない。第2代ロチェスター伯爵(ジョン・ウィルモット)と同じくらいに、愛せない。

いきなり思い切ったことを書いてしまいますが、じつはさるおは、カポーティは、作家などではないと思っています。
詩人だと思う。
彼が書いたのは自伝であり、ノンフィクションであり、告発であり、"物語"を紡ぐのではない。
ただ、美しすぎるほどの言葉を紡ぐ人間として、やっぱり天才だったと思います。
その、書いて良ししゃべって良しの才能は、カポーティを社交界のアイドルたらしめた。ぶっとんだ個性と高すぎる知能とゴシップで時代の寵児となり、自分をさらけ出しつつ、自分を隠して生きてきたのではないかと思います。
トルーマン・ストレックファス・パーソンズ(Truman Streckfus Persons)だった少年は、家庭の事情できらびやかな俗物になってしまった。

カポーティの真意は、常にわかりません。一家惨殺事件の犯人ペリーにのめり込んでいくのも、"ペリーの中に自分自身を見つけたから"だとは思いません。そんなキレイ事ではないのがカポーティの歩んだ道だと思う。裏切られ、裏切る、それがカポーティの真実なんじゃないかと思います。
ところが、『IN COLD BLOOD』を書くことで、底なしの闇にはまってしまった。優しいことを言ってみたり金脈呼ばわりしたり、真意のわからない倒錯ぶりで、早く死刑になっちゃえよーという、自分がまさかの"冷血"っす。小説の一部が発表されると、死刑は延期。死刑が執行されなければ、小説は完結しない。もはや、"救いたいけど救えない"のではなく、"逃れたい"。
そして、ペリーの死刑執行を目前に、自分の闇に触れる、知ることの対価としての苦痛に気づく。文学や絵画の才能があるペリーについての「同じ家で育ち、ある日ペリーは裏口から、自分は玄関から出て行った」という言葉は、結局正しかったわけです。"ペリーの中の自分自身"、理解されない人生、誤解され続ける人生、それをやっぱり見つけていた。ここで初めて、利己的な俗物の心が引き裂かれることになる。カポーティは、二股の道を同時に歩みはじめます。
もし彼が、本当に"ただの俗物"ならば、死刑の瞬間に立ち合わず、冷たく帰ってしまったはずなのに、彼はそうしなかった。絞首台に上がるペリーの孤独が、そのままカポーティの孤独に重なる。名声が幸福とイコールではない、愛に飢えた少年の姿が重なる。

美談などではなく醜聞である、武装した天才カポーティの華やかな人生は、臨界点をこえて、傷つきやすい天才の破滅へのカウントダウンとなるわけですが、表の顔とは裏腹な孤独と苦しみが、"見えないところに"見える。
ペリー・スミスもまた、優しさを持ち合わせた凶悪犯であり、カポーティを利用するしたたかさも持っている。理解されない人生、誤解され続ける人生を歩んだ、似た者同士。
What's in cold blood?と思いましたが、Cold blood in cold blood.だと気づきました。

良し悪しでは決して量れない人の複雑さ、それをついにさらけ出した、カポーティのこの人生はありだと思います。美しすぎるほどの言葉の波と、その美しさよりもさらに美しいみっともない下世話な人生、ありだと思いますね。

万人受けをのぞまない真摯な映画づくりだと思います。いいね、こーゆー作品は。
名脇役フィリップ・シーモア・ホフマンね、カポーティかと思いました。オスカー主演獲っただけのことはあります。

心ゆくまでさるお、もんち!
posted by さるお at 02:52| Comment(7) | TrackBack(30) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
さるお様
TBありがとうございました.極めて映画らしい映画で,緊張感高い全編の雰囲気が丸ごと好きです.
フィリップ・シーモア・ホフマン良かったですね.
この後すぐに「冷血」を買って読みました.こっちも素晴らしい.全く色褪せていない,一級品でした.
Posted by ほんやら堂 at 2007年04月22日 09:53
こんにちは。
間違って海猿のTBをくっつけてしまいました。
お手数ですが、削除お願いします。
Posted by ノラネコ at 2007年04月22日 10:33
ほんやら堂さん

> 2枚舌,しかも最後に死に直面するペリー本人に,会わずにはいられない.

早く死んでくれーっちゅーことで弁護士の紹介を拒否したあたりから、"冷血"の本性と葛藤を見ることになりましたね。ほんとに、緊張感高い雰囲気でした。
同時に、それ以前の利己主義に徹した人生も、すごく重要でした。

フィリップ・シーモア・ホフマンはすごく良かったっす。リアリティ溢れる演技というか、表情の下の感情を読めと、こちらも試されたような感じです。
Posted by さるお at 2007年04月26日 00:36
完全な善と完全な悪。
のようにみえるもの。
でも、個体としての人間の差異がほんのわずかだったら。。。
私達はいったいどんな判断基準で物事をみればいい?それとも、そんな判断さえ意味がない?

美しく、奥深く。
そしてただただ悲しい映画、のように思えました(~~)。
Posted by Ms. Glenwood at 2007年07月18日 09:09
お久しぶりです。
素晴らしいレビューを読ませていただいて、カポーティに自分を投影しながら見ていた私は、気持ちを見透かされてしまったような気になってしまいました。
ベビーフードを与えるのも、弁護士を手配しなかったのも、死刑を見届けたのも、著名人の輪の中でジョークをいうのも、どれもこれもカポーティなんですよね。

何年経っても、きっとこの映画は覚えているし、心に刻みついている。こういう心の中に澱を残すような作品、何度も鑑賞は出来ないけれど好きです。
Posted by chibisaru at 2007年07月19日 21:37
Ms. Glenwoodさん
完全な善と完全な悪、人は物事をそーゆーふーに分けたがる。そこには容赦がなくて、とっても厳しい。分類される側の痛みは、分類されてみなければわからないんだよね。

> 私達はいったいどんな判断基準で物事をみればいい?

みんなそれぞれ、自分の中に自分だけの判断基準を持つなら、それはそれでいいのかもしれないけど、基準を"常識"に求めようとするとオカシナことになっちゃう。
この作品は、分類される側の痛みを描いてるんだと思うけど、もっともっと複雑っすねー。
Posted by さるお at 2007年07月21日 15:44
chibisaruさん
そうそう、カポーティには自分が重なるよね。

> 心の中に澱を残すような作品、何度も鑑賞は出来ないけれど好きです。

さるおも同じです。
心をえぐられるような、いちばん知られたくない自分のヒミツを映画で見せられるような、それで観ているさるおが傷ついてしまうような、そーゆー作品が好き。ただのマゾかな(泣きながら)。
Posted by さるお at 2007年07月21日 15:51
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