2007年05月19日

映画鑑賞感想文『太陽』

さるおです。
『SOLNTSE/LE SOLEIL/THE SUN/太陽』を観たよ。
監督はカンヌでパルムドールを毎年のように持って行くアレクサンドル・ソクーロフ(Aleksandr Sokurov)。
出演は昭和天皇にイッセー尾形、マッカーサーにロバート・ドーソン(Robert Dawson)、侍従長に佐野史郎、老僕につじしんめい、香淳皇后に桃井かおり。

アレクサンドル・ソクーロフは歴史上の(問題)人物テーマの映画を4つ撮るらしく、ヒトラーの『MOLOCH/モレク神』、レーニンの『Telets/牡牛座』に続く3つ目のようですが、4人目は誰かな。前2作は観てませんが。WWIIの指導者だと3部作でいいような。

『太陽』は、敗戦直前からマッカーサーとの会見を経て、人間宣言を決断するまでの数週間を描いてます。
ひとりの人間としての孤独と苦悩。そして特に、苦悩、というより"苦悩の過程"は「私の身体はキミたちと"ほとんど"変わらない」というセリフに深く表れてたと思います。
センシティブで子供っぽく浮世離れしたヒロヒトの言動はもちろん常軌を逸しているように見えるわけですが、帝王学という特殊な手法で育った"現人神"の対外的に怖じ気づかない無垢さや立憲君主制とは何かという教養と相まって、痛々しい"人間"ヒロヒトを浮かび上がらせてます。
マッカーサーの鼻につくほどの合理思考や、気安くチャーリーだと囃し立てられる屈辱に甘んじるヒロヒトの姿、ドラマとしてのコントラストは素晴らしかったっす。
マッカーサーに"無邪気に挑む"(無条件降伏だけど)かのような帝王学的外交手法のシガーをもらうシーンの自然さは、イッセー尾形の真骨頂。

"神だったヒロヒトが人間だと宣言するまで"を描いてはいるのだけれど("人間宣言"が実際にあったかどうかっちゅー解釈の問題はここでは議論しません)、それよりも、"家族"というテーマになだれ込む終盤がええな。というより、桃井かおりがええ。
「私は、神格を自ら返上する。私は、神であることの運命を拒絶した」
「あ、そう。そうだと思ってました」
あ、これは"家族の会話"だ。
ほんで少しの間は「あ、そう」「そうそう」「あ、そう」「そうそう」だけのコントに突入しますね(笑)。
そしてその後。
「私の国民への語りかけを記録してくれた録音技師はどうなったかね?」
「自決しました」
「止めたんだろうね?」
「いいえ」
ここで香淳皇后は、ヒロヒトと侍従長を睨みつけます。涙は流さない。女性として、母として、戦争を憎み、怒る、厳しい目で、睨みつける。ここがええです。そこには、人間宣言をすることを許さない人々が垣間見える。人間になることを決めた天皇に、人間になることを許さない人々。それを見ている一女性としての皇后がいるわけですね。

http://taiyo-movie.com/

ちなみにさるお、コドモの頃に「てんのうへいかってなに?」って誰かに聞いたことあるような気がしますが、どう教えられたのか覚えてません。きっと理解できなかったから覚えてないんだ。で、コドモに同じ質問をされたらどう答えようかと考えて、細かいことはともかくも基本的にはこう言おうと決めました。
「家系図が世界でいちばん長いうちだから大事にされてる人たちだよ」と。

歴史上の(問題)人物テーマの映画といえば、『DER UNTERGANG/ヒトラー最期の12日間』の方が考えさせられましたね。

心ゆくまでさるお、もんち!
posted by さるお at 20:16| Comment(8) | TrackBack(1) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この映画が日本で公開されること自体が すごい と思うのです。
もはや「大日本帝国」ではないという確信がいたします。そう、もはや戦後ではない。
しかしながら 外交の分野においては時にひやっとさせられますが。

わたくし、イッセー尾形さんを敬愛しております。多分、旦那さんよりも(笑)
人間ヒロヒトを演じきる。それはそれは大変なことだったろうと思います。
ほかの日本人役者もしかり。
ソクーロフ監督も日本のこと かなり研究されていますね。インタビューも読みましたが 本当に素晴らしい監督です。

カンヌといえば 松本監督の「大日本人」が気になりますね。
面白そうですが どうなんでしょう?私は観るとしたら BSで放送されたときかな。


Posted by ヤマトのり at 2007年05月26日 03:05
ヤマトのりさん
日本人のタブー感って、あんまり強くないよね。日本って、やっぱ比較的"何でもあり"な国だなぁ。
現実には、外交下手で綱渡りしてるけどさ。

> わたくし、イッセー尾形さんを敬愛しております。

そっか、旦那さんよりも敬愛してるのかー(笑)。舞台とか、観たことある?おもしろそうなのでいつか観たいなと、ずーっと思ってます。

ソクーロフは映像へのこだわりがいろいろありそうな監督さんっすね。

松本監督の『大日本人』ね、観たいっす!たけちゃんの新作も観たいけど。
まっちゃんははっきりとたけしさんはライバルだって言ってるみたいだし、楽しみだなぁ!
Posted by さるお at 2007年05月27日 03:08
さるおさーん♪今頃ですみません。
知っているかもですが 只今 世田谷パブリックシアターで 小松政夫×イッセー尾形
びーめん生活スペシャルを公演中です。

一人芝居もさることながら 小松の親分さんとのからみ すっごく面白そう!!
想像しただけで笑いが止まりません。
もし観に行けたら感想聞かせて下さいね。

イッセーさんは新潟にもよく来てくださいますが 舞台はまだ観たことないんですー。
自由に動ける独身貴族が羨ましいぜ(笑)
今年の七夕公演は 誰がなんと言おうと行ってやるうー!
Posted by ヤマトのり at 2007年06月05日 11:53
ヤマトのりさん
小松の親分も大好きっす。ほとんど愛なくらいに。
親分×イッセー尾形、笑けそーだなー。

> もし観に行けたら感想聞かせて下さいね。

じつはさるお、生活環境がガラッと変わる過渡期でして、5月末からものすごい忙しさに見舞われておりました。ブログも休もうかと思ったくらい。
なので行かれませんが、うーん、いつかは行きたい!

イッセーさん、新潟でよく公演やってるのか。七夕公演てもうすぐだけど、行けそうかい?
Posted by さるお at 2007年06月13日 19:40
今頃すみません。
じつは私もめちゃ多忙で しかもネットがしばらく使えん状態にあり 世間から取残されたようなキモチでしたが 本日開通いぇ〜いv(^^)v なのでした。
 
チケット取れたので行きますよ♪わーい。
Posted by ヤマトのり at 2007年06月27日 02:44
ヤマトのりさん
ご多忙、おつかれさまっす。そしておかえりなさいませ。

> チケット取れたので行きますよ♪わーい。

http://www.iiv.ne.jp/issey/mov/komatsu/index.html
おもしろそーだなー。
忙しそうなイッセーさんと親分によろしく。感想聞かせてー。
Posted by さるお at 2007年07月03日 18:08
さるおさん。忘れた頃にこんにちは。

>忙しそうなイッセーさんと親分によろしく。感想聞かせてー。

観てきましたですよーっ!それでね、こっちのは一人芝居のだったから親分には会えなかったんです。ぐすん。

んでもって感想伝えたくて ついに内ブロ作りました(笑)ちっちゃな根性がやっと形になりました。これもひとえにさるおさんのおかげです。ありがとうございます。

イッセーさんのは みたもん の中にあります。ネタばれです。
さるおさんの完璧なレビューには程遠い、正直お見せするのもお恥ずかしい稚拙な文章しか書けませんが よろしかったらお時間のあるときに ふらっとお立ち寄り頂ければ 有難き幸せでございます。

なお、次回から のり。にしますので合わせてよろしくですー。


Posted by ヤマトのり改め のり。 at 2007年07月17日 16:19
のり。さん
そっか、一人芝居か。親分とのやつも楽しそうだけど、イッセーさんといえばやっぱ一人芝居だよなー。

> ついに内ブロ作りました(笑)

おーぉ!やりましたね。おめでとーう!
適当に、ユルユルに、そーゆーのがいいと思う。書くのも読むのも、肩に力入れないで気楽にやってくのがいいよね。
ちょくちょく遊びに行くのでよろしくです。応援してるよ。
ジャスコは人気のアパートだと、さるおも思うし。(←がんばれさるお)

さっそくコメントしにお邪魔しましたが、ヤフーさんでパスワード作んないと書き込めないやー。今はさるおんとこのに書いてるこれだけでごめん。またあらためて伺います。
Posted by さるお at 2007年07月21日 15:20
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mini review 07044「太陽」★★★★★★★☆☆☆
Excerpt: カテゴリ : ドラマ 製作年 : 2005年 製作国 : イタリア スイス フランス ロシア 時間 : 110分 公開日 : 2006-08-05〜 監督 : ..
Weblog: サーカスな日々
Tracked: 2007-05-31 13:03