2005年07月19日

映画鑑賞感想文『白いカラス』

さるおです。
『THE HUMAN STAIN/白いカラス』を観たよ。
監督は『BONNIE AND CLYDE/俺たちに明日はない』や『THERE WAS A CROOCKED MAN/大脱獄』の脚本を書いた、『KRAMER VS. KRAMER/クレイマー、クレイマー』の監督ロバート・ベントン(Robert Benton)。
出演は、アンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)、ニコール・キッドマン(Nicole Kidman)。
『THE ABYSS/アビス』『APOLLO 13/アポロ13』『THE TRUMAN SHOW/トゥルーマン・ショー』『A BEAUTIFUL MIND/ビューティフル・マインド』、その後『THE HOURS/めぐりあう時間たち』でもニコールと共演したエド・ハリス(Ed Harris)、最近めっきり監督業をやらなくなった『FORREST GUMP/フォレスト・ガンプ -一期一会-』『APOLLO 13/アポロ13』『RANSOM/身代金』『MISSION TO MARS/ミッション・トゥ・マーズ』のゲイリー・シニーズ(Gary Sinise)。

この映画は内容が素晴らしいのに、邦題がどうも気に入らない。劇中でフォーニア(ニコール)が「あたいはカラスよ」とか言うセリフがあるので彼女が白いカラスなのかと思うとそうではなくて、白い肌のコールマン教授(アンソニー)が白いカラスだったりする。教授が主役だもんな。

いいじゃないのさ、『ヒューマン・ステイン』で。日本人に"ザ"は難しいのでそれはなくてもいいが(本当はよくない)、『白いカラス』はひどすぎっぺ。白いのは教授でカラスはフォーニア、混ざってっぞ。
いい映画なんだけど、文句ついでにもうひとつ言ってしまう。フォーニアの生い立ちの設定が、『MONSTER/モンスター』アイリーン・ウォルノスに似すぎている。子供の頃に両親が離婚して、再婚相手の継父に性的イタズラをされたからおかあちゃんに言いつけたけど信じてもらえず、14歳で家出して、その後はひとりでたくましく生きてきた。『モンスター』も2003年の作品、『白いカラス』も2003年の作品。似た境遇のいわゆる"すれた女"だが、迫力満点なのはシャーリーズ・セロン(Charlize Theron)演じるアイリーンの方なので、どうしてもフォーニアがかすんでしまい不幸なのかどうなのかピンと来ない。単独で聞けば同情のあまり泣いてしまうが、両方聞かされるとフォーニアの不幸負け。

文句たれんのはこれぐらいにして、この映画は深みのあるいい映画です。

「あの生徒ふたりは存在するのか?」と言ったあとの言葉"spooks"、どう考えても"お化け"という意味なんだけど、これで社会から追われてしまう。腹は立つわ悔しいわ。
その後出会った運命の人との"人生最後の愛"、やっと憤りから解放されて癒される時が来たのかな、と思うが、この物語の本当の核心はそれではない。
核心は、若かりし頃に犯してしまった罪と、その後の贖罪の人生の皮肉。
自分の外見と本当の人種のギャップが救いでもあり落とし穴でもあった若かった頃、あらがいようはあったはずなのに、その秘密を打ち明けたことで大切な人を失った過去を若いコールマンなりに乗り越えようとした結果、本来自分が持つべき誇りに背を向けてしまった。それがコールマンのステイン。
だから彼のその後の人生は、罪の償いにあてられる。カラードという存在自体に憤り、嘘をつき通す人生、その延長で起きた皮肉を最後に、人生で2度目の告白をし、初めて受け入れられた時、やっと解放されるのである。
「活力溢れるコールマンがこんな事故で死ぬわけない」
つまり、彼はもう生きようとしなかったのではないか。人には、解放であれ、諦めであれ、疲労であれ、喪失であれ、"生きることができない"ということがあるのかもしれない。
たとえば最近では『STAR WARS: EPISODE III - REVENGE OF THE SITH/スター・ウォーズ エピソード3 -シスの復讐-』のパドメがそうだと思う。自分の命より大切に愛したアナキンの正義を失って、もう生きることができなくなった。だから彼女はあっさりと死んでしまうのである。

フォーニアにもステインがある。生い立ちもそうだし、今もふたりの子供の遺骨を抱えているし、死にたくてしょうがないんだけど、思考を避けるために忙しく働いている。
ベトナム帰りのレスター。修羅場をくぐり抜け地獄から生還した男が、深すぎる愛ゆえに妻を脅かす。これもステイン。

ラストシーン、ふたつの染みが雪の中に消えてはじめて染みの黒さに気づいたネイサンが、最後にまだもうひとつ染みが残っていることを思い出させてくれる。死ぬ人もいて、生きる人もいる。
THE HUMAN STAIN
うーん、いいタイトルだ。映画では、最後のシーンにまでそのことが映像的に描かれていて丁寧だ。

ところで、序盤の、アステアの曲でアンソニー・ホプキンズとゲイリー・シニーズが踊るシーン、いいね、すごくいい!
アンソニーってさ、人食い殺人鬼なのかと思っちゃうんだけど、ああいう"普通の人間"の役の方が好きだな。今作みたいに、けっこう饒舌で、戸惑いや怒りがあるんだけど、ほんの少しだけコミカルな、"普通の人間"。アンソニーにはコメディもやってほしいぞ。きっと笑わせてくれると思うんだけど。

そうそう、ゲイリー・シニーズといえば『ミッション・トゥ・マーズ』について書きたいことがあるんだった。また今度ね。

心ゆくまでさるお、もんち!
posted by さるお at 20:29| Comment(2) | TrackBack(5) | 映画の感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
トラックバックのお誘いありがとうございます。早速やってきました。

「生きることができなくなった」という解釈、そういう見方もできるのかと思いながら読ませていただきました。「2度目の告白」と「解放」という位置づけには大きくうなづきました。

『白いカラス』という邦題は、主題を読み間違える可能性があるので、よくないなあと思っています。

他の作品ですが、『ぼくの神様』というハーレイ・ジョエル・オスメント君が出ている映画、あの題名も"Edges of The Lord"にしないと、最後のほうの光るセリフに意味がなくなってしまうんです。逆に『チョコレート』というのは、邦題のほうがいいんじゃないかなんて思ってしまうほど良い題名だと思います。

日本語で題名を付けるのは難しいとは思うのですが…。
Posted by ちんとん@ホームビデオシアター at 2005年07月20日 20:53
ちんとんさん
『ぼくの神様』、さるおはまだ観てないんですが、最後のほうに光るセリフがあるんなら、それを殺しちゃうタイトルは絶対ダメだよねぇ。作品が台無しになっちゃうもん。
さるおも『チョコレート』はまぁまぁだなーと思いました。『MONSTER'S BALL』の方が深いようには感じますが、『チョコレート』も悪くないですね。
邦題ってほんとに難しいね〜。
Posted by さるお at 2005年07月21日 04:56
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